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老朽化の進む壁や天井から入り込む風がビュオゥ、と音をたてる。
一箇所だけならばただの不気味な音となるだろうが、館中のあちこちで風が入り込むと、
音は重なり、交じり合い、不可思議なハーモニーを奏でる。
元々が不気味な音なせいもあってか、さながら亡霊たちのテナーのように。
それに合わせて演奏されるバイオリンの音色が聴こえるのなら、それは立派な音楽と呼べるだろう。
肩まで届く長さをした金髪の少年は、その館の応接間でただ一人、いや、果たして一人と扱うべきなのかはわからないが、
黙々と、ただただ音を奏でていた。
集中していたためか、はたまた単に風とバイオリンにかき消されていたためか。
館の入り口で、扉をノックする音に気づいたのにしばしの時間を要した。
ふと聞きなれない音に気づいた少年が演奏を止める。
…気のせいではない。
バイオリンをケースに仕舞い、ソファに置いてから急ぎ足で扉へと向かった。
この館は知人に対して開放してある。故に、時々誰かが足を運んでくることもあるのだ。
今日は誰がやって来たのだろうか。
とりあえず、第一声に気づくのが遅れたことを謝ればならんな、
などと他愛もないことを考えながら、ギィ…と軋む扉を開く。
……見慣れない姿が、そこにあった。
「…初めて会う、か?」
金髪の少年が言う。
疑問系であった理由は、どうしてか突然この館を訪れた、そのヘッドホンをした少年に一瞬、誰かの面影を重ねたからに他ならない。
ただ、少し考えてはみてもその誰かが何者なのかは自分の記憶に思い当たることができなかった。
「………今の演奏、あんた?」
ヘッドホンをした少年は静かに口を開いた。
妙に感情を感じ取れない、静かな声だった。
初対面の人間が突然訪れてその口ぶりか、なんてことより(第一、金髪の少年自身もそういうところがある)先にそちらが浮かぶ。
透き通ったエメラルドグリーンの瞳を覗けば全てが見通せそうであったが、何一つとして見えはしなかった。
「…………俺の顔に何かついてる?」
「…ああ、いや、すまん」
顔色を伺っていた、というよりもその目を見ていたことを一度問いはしたものの、
金髪の少年のことを不信に思うこともなく、ヘッドホンの少年はなおも感情のない淡々とした声で続けた。
「……で、質問の答えは?」
「…ん? ああ…。…バイオリンのことなら、俺だが」
「へぇ…」
片手で数えられるほどのの間をおいて、少年はゆっくりとした動作でヘッドホンを外した。
吹き付ける風が束ねられた白銀の後ろ髪をなびかせる。
「…この館、時々楽器を演奏する音が聞こえるけど」
「まあ、色々な楽器を保管してあるからな…」
「……ふぅん。……突然こんなこと言うのも何だけど、見せてもらってもいいか?」
「楽器を、か? …構わんが」
金髪の少年は特に彼を拒むことをしなかった。
その理由はなかったし、ヘッドホンの少年から悪意のようなものも感じ取れなかった。
「………ありがとう。…………御戸、頼次」
「ん?」
「……聞こえなかったか? …みと・らいじ。俺の名前」
「ああ…。…マコト・ジョーンズだ。よろしく」
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そんなわけで、この度同背後を動かす運びとなりました。
マコトよりもさらに無愛想な奴ですが、出会うことがあったら気軽に接してやってくださいな。